サイファーの口づけ:選択式ショートストーリー
By Cathleen Rootsaert
別れ
愛する者に別れを告げることも、君にとっては新たな経験だった。居住区で起きたことのすべてが… ヤーロウとのやりとりのすべてが、自分の選択が正しいことの確信だった。だが痛みが消えることはなかった。
君の世界は徐々に闇に包まれ、今までにないほどに暗くなった。自分を愛してくれる誰かが、近くにいることは分かっていた。君のことを理解してくれる人が… その人を思うと、心が引き裂かれそうになった。さびしさは死に等しい苦しみだった。
だがアンミアンは少し様子が違った。まったく動揺しているようには見えなかった。バーで仲間達と騒いだり、中庭でトランプをしたり、バードの公演を見て笑ったりしているところを見た。
それは君には耐え難い光景だったが… アンミアンの姿を見ない方がもっと辛かった。
だが次第に日常を取り戻した。そしてある日君は、のしかかる世界がほんの少しだけ軽くなっていることに気づいた。君はカーテンを開けた。シャッターも開けた。そして床を掃除して、風呂に入った。たったそれだけでも十分だった。フリーランサー・ライスでさえ、君の体からいい匂いがすることに気づいた。
その一方でアンミアンは、別の愛を見つけていた。今度の相手はエンジニアだった。二人はバードの公演で出会い、どこにでも一緒に行くようになった。彼らは周囲に幸せを振りまいていたが、嫉妬にまみれた君の目を通すと、その様子にはどこか絶望的なところが感じられた。
君は傷ついているのか? 本当に深く傷ついている。だが明るさを増した世界で楽観視していた。もう二度と誰かを愛せなくても、それで構わないと… そして君は仕事に没頭した。フリーランサーとして、重要な任務を任される身だ。軽い気持ちでできる仕事ではなかった。
ある日の夜遅く、誰かが部屋の扉をノックした。アンミアンだった。その目には涙が溢れていた。歓喜と落胆が同時に訪れることがあるとしたら、その時だった。不安と喜びが心の中で入り混じっていた。
君は震えながら、アンミアンの言葉に耳を傾けた。アンミアンは君と同じぐらい傷ついていた。今でも愛していると言った。興奮と不安と渇望が爆発して、君の胸から飛び出しそうになった。
日常を取り戻す道は長く険しかったが… 愛を忘れた振りをするのは、まやかしに過ぎなかった。君達は一晩中語り合った。夜明けが訪れる頃には、アンミアンは君の腕の中で眠りに落ちた。天井を見つめながら、これからどうするべきか考えていた。